シュガーレスでお願いします!
奥寺法律事務所のあるこのエリアは、都心のターミナル駅から私鉄に乗って約5分という場所にある。
都心へのアクセスの良さと、静かな住宅地という二つの面を併せ持つ好立地故に、昨今では若年層を中心にハイソでオシャレな街というブランドイメージがすっかり定着した。
話題のカフェや、人気のレストランの出店が相次ぎ、事務所の周辺には両手で数えても足りないほどの洋菓子店が乱立している。
そんな有象無象がひしめいている中、高確率で美味しいパティスリーを嗅ぎあてる香子先生の鼻はかなりのものである。
それはモンブランに舌鼓を打つ皆の満足そうな顔を見れば明らかである。
「比呂先生もおひとついかがですか?」
皆の様子をデスクから遠巻きに見ていた私に、新米パラリーガルの君島さんがモンブランの乗った皿とフォークを差し出す。
「私は結構です。甘い物は苦手なので。皆さんでどうぞ」
「そうですか……?」
差し出された皿を断ると、とっても美味しいのにどうして食べないのだろうという君島さんの落胆が見て取れる。
甘い物が苦手というのは、そんなにおかしいことなのか。
私は少々卑屈を拗らせながら、常日頃から愛飲しているインスタントコーヒーを一口飲んだ。