シュガーレスでお願いします!
「ごめんな。最初の方、バタバタしちゃって」
「いいえ!!あの有馬慶太にサインと握手してもらったので全然気にしてません!!」
soleilから帰る道すがら、君島さんはご満悦の表情でサイン色紙を胸に抱え、朗らかに笑っていた。
「それよりも!!気をつけた方がいいですよ!!」
「……なにが?」
「さっきの従業員の人ですよ!!絶対に比呂先生のことを敵認定していましたよ!!」
その場に立ち止まり私に向かって指を指して力説する君島さんの勢いに気圧され、思わず顔を引っ込める。
「敵って……」
今日会ったばかりの人に嫌われる謂われはないのだけれど。
「実物に会って納得しましたが、有馬慶太は噂に違わぬ超絶イケメンでした……」
君島さんは腕を組みうんうんとひとりで頷いている。
「あれほどの人なら、一夜の思い出でもいいからって迫ってくる女性もがわらわらいますよ。あ、私は純粋にパティシエとして尊敬しているだけですけどね」
最早話についていけていない。
慶太は仮にも私の夫なんだが……。
「既婚者なのに?」
「既婚者でも、です!!比呂先生、気をつけてくださいね!!」
気をつけるってどうやって?
君島さんのアドバイスは曖昧で、当てにしていいのかどうか判断に迷うところだ。
しかしながら、彼女が尊敬してやまない慶太の妻が私のようなシュガーレス女であることについては、確かに胸が痛むのであった。