シュガーレスでお願いします!
「比呂」
「な、なに!?」
慶太が何を言い出すのか分からなくて、ギクンとオーバーリアクション気味に問い返してしまう。
痴話喧嘩なんかしたことがないから、仲直りの仕方だってまだ分からない。
多分、私達は夫婦として未熟なんだ。
「一人になって、色々と考えたんだけど比呂の言う通り、しばらくは“節度”ってやつを実践しようと思う」
「え?」
あんなに、嫌がっていたのに本当にいいのかと、確認する前に慶太がソファから立ち上がる。
いつも着ていくチェスターコートを羽織り、キーケースをポケットに入れる。
「……どこ行くの?」
「soleil。来月から出す新作を考えるから、しばらく帰りは遅くなる」
私と慶太を隔てるようにバタンと玄関の扉が閉まっていく。
もしかして……私達は仲直りのきっかけを見失ってしまったのだろうか。