シュガーレスでお願いします!

「申し訳ありませんが、あなたには教えられません」

教えろと言われて、良いですよと答える弁護士がどこにいるんだ。

当然のように伝えると、葛西さんの旦那さんは、私を脅すように面会室にあるテーブルを足蹴にして激高した。

「いいから教えろ!!」

ガタンと派手な音を立てて、床にひっくり返ったテーブルを冷ややかに見つめる。

彼にも直接私を攻撃するのはまずいという理性がわずかばかり残っていたらしい。

「裁判所から接近禁止命令が出ているにも関わらず、奥さんのアパートに行かれたのはなぜですか?」

「それは……」

「お忘れのようなので、もう一度申し上げますね。接近禁止命令に違反した場合、100万円以下の罰金または1年以下の懲役が科せられます」

極力感情を排除し、淡々と説明していく。

葛西さんの旦那さんの表情が見る見る青ざめていく。頭に血が上るあまり、本当に忘れていたらしい。

「本日はお帰りください。今回は見逃しますが今度彼女に近づいたら、次は警察でお会いすることになります」

女だから暴力で脅せばなんとかなると思ってもらっては困る。

毅然とした態度を崩さずに彼の要求を跳ねのけると、チッと盛大な舌打ちをされる。

葛西さんの夫は、八つ当たりするように観葉植物の鉢植えをなぎ倒し、椅子を床に転がし、力任せに扉を閉めて面会室を出て行った。

ドタンバタンと激しい足音が聞こえなくなって、ようやくふうっと一息つく。

まったく……子供じゃないんだから。

床の修理代を請求されないだけありがたいと思って欲しい。

< 81 / 215 >

この作品をシェア

pagetop