シュガーレスでお願いします!
「うわあ……。すごい有様ですね」
面会室の扉を開けた君島さんは面会室の惨状に閉口し、オーマイガっと叫んで頭を抱えた。
「比呂先生、大丈夫だった?」
「はい。平気です」
君島さんの後ろからひょっこりと阿久津先生が顔を覗かせる。
もし彼が私に狼藉をはたらこうものなら問答無用でお縄にするために、ずっと別室で待機してくれていたのだ。
……あの人に他人を傷つける度胸はない。
だから、ストレスや不満がすべて奥さんである葛西さんに向いたのだろう。
「黒帯のこの腕前を披露できなくて残念だったなあ」
阿久津先生はおどけるように腕をまくり、力こぶを作ってみせた。
学生時代、空手でインターハイに出場した阿久津先生は奥寺法律事務所きっての武闘派だ。
葛西さんの旦那さんとの面会が済み、お役御免となった阿久津先生は自ら事務所に戻って行った。
さすがに君島さんだけでは大変だろうと、私は面会室の片づけを手伝うことにする。
「結婚って大変なんですね……」
割れてしまった鉢植えの欠片を箒で集めながら、君島さんはしみじみ呟いた。
未婚の君島さんは結婚に淡い期待を抱いていたのか、一気に夢が壊れて可哀想だった。
「そうだな」
椅子をもとの位置に起こしながら、静かに同意する。
夫婦の危機に直面しているという意味では、私と葛西さんは紛れもなく同志である。