君への愛は嘘で紡ぐ
すると、お嬢様は顔を赤くさせた。


それが移りそうで、手を離す。


「玲生、働け」


タイミングよく店長が注文の品を出してくれて、俺は逃げるようにそれを運ぶ。


「お待たせいたしました。ホットコーヒーです」
「玲生」


カップを机に置き、すぐに去ろうと思ったのに、客に呼び止められた。


小さく手招きされ、顔を近づける。


「あそこに立ってる子、お前の彼女か?」


……これだから、知り合いが店に来るのは嫌なんだ。


「ちげーよ。ただの同級生」
「そうは見えなかったけどなあ」
「しつこい」


それ以上からかわれたくなくて戻ろうとしたとき、お嬢様がまっすぐ俺を見ていたことに気付く。


最悪だ。
どこまで真面目なんだよ、あのお嬢様は。


「笠木さん、私、できる気がしてきました」


それはよかった。
俺はお嬢様にバイトしてみろって言ったことを後悔してるよ。


「次は私が注文を聞きに行きますね」


どこで自信がついたのかわからないが、ここに出てきたときの不安そうな表情はなかった。
それどころか、見たことがないくらい楽しそうに笑っている。


もともと、こうして笑うことができる奴だったのだろう。
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