君への愛は嘘で紡ぐ
初めて見たときのつまらなそうな表情、作り笑いが頭に染み付いているから、心からの笑顔を見て、心を揺さぶられる。


俺がお嬢様の存在を知ったのは、一年くらい前で、とあるパーティーのバイトをしているときだった。


時給の高さに釣られ、すぐに応募した。
まさか採用されるとは思っていなかったけど。


そこでの仕事は、料理を運ぶだけだった。
誰が来ているのか、どんな話をしているのかなどは他言無用という条件があったが。


飲み物を持って歩いていたとき、赤いドレスを身にまとったお嬢様を見つけた。
三人の男に囲まれているが、今にも逃げたそうな顔をしていた。


「小野寺さん、ぜひ俺とまた会ってもらえませんか?」
「俺と」
「いや、僕と」


金持ちは大変だな、と思った。


お嬢様は美しい部類に入るだろうが、きっとそれ以外の理由で誘われているのだろう。


困っているところを見ると、なんとなく助けに入りたくなった。


だけど、俺はただのバイトで、余計なことはできなかった。


「機会がありましたら、そのときはまた仲良くしてください」


凛とした姿勢で、見事な作り笑い。
男たちはつまらなそうにお嬢様から離れていった。


一人になったお嬢様から、表情が消える。
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