君への愛は嘘で紡ぐ
「どういうつもりだ、円香」


未だかつてない声の低さに、体が強ばる。


「……彼は、私の大切な友人です。友人を侮辱され、怒らずにいられませんでした」


こんな嘘で騙されてくれるだろうか。
いや、無理だ。


友人だとしても、笠木さんと関わることをお父様が許してくださるはずがない。


「明日から前の学校に通いなさい。もうこの男とは関わるな」


予想通りの言葉だった。
お父様は笠木さんの写真をわざわざ裂き、離れていく。


笠木さんの写真はスタッフにより回収された。


「あの……円香さん」


スタッフの背中を見つめていたら、鈴原さんが恐る恐る私の名前を呼んだ。


「勝手に勘違いして、すみませんでした」


謝られても、許す気にはなれなかった。


「……髪を染めたことも、バイトをしたことも事実です。ただ、それは彼に無理矢理やらされたことではありません。彼らの世界に触れ、私自身がやってみたいと思ったので、そうしたまでです」


スタッフの姿が見えなくなり、鈴原さんと目を合わせる。


「少し風にあたってきます」


軽く頭を下げ、テラスに出た。


もう、笠木さんには会えない。
それは嫌だったが、逆らうと、笠木さんの身に何が起こるかわからない。


私は夜風にあたりながら、声を殺して泣いた。
< 121 / 228 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop