君への愛は嘘で紡ぐ
汐里先生は希実という女性にしがみつかれていて、その女性の両肩を抱いている。


その状況に驚いてしまい、私は出入り口で止まってしまった。


「しーちゃんと一緒じゃないってことは、玲生、一人なんだよね?倒れてたらどうしよう……」


後ろ姿しか見えないが、怯えているのがわかる。


「ここにいるから大丈夫だよ、母さん」


笠木さんが声をかけると、女性は振り返った。
泣きそうな、だけど安心した顔をしている。


……母さん?


「玲生……!」


笠木さんはその人に抱きつかれる。


「驚かせてごめんな、お嬢様。ありがとう」
「いえ……」


私は頭の中を整理しきれず、そう答えることしかできなかった。


「……お嬢様?」


笠木さんのお母様は笠木さんから離れ、私の顔を凝視してくる。
私は一、二歩後ろに下がる。


「高校のとき転校してきた、お嬢様?玲生のお見舞いに来てくれたの?」


お母様は構わず私に近付いてくる。


「母さん、落ち着いて。お嬢様は友達の親の見舞いに来ただけだから」


笠木さんがお母様の腕を引っ張ってくれるが、離れる気配はない。
お母様は笠木さんの手から逃げ、私の腕を引いて病室を出た。


「母さん!?」
「すぐ戻るから!ちょっとこの子と話があるの!」
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