君への愛は嘘で紡ぐ
思い返してみるが、笠木さんを見かけた記憶がない。
どのパーティーも退屈で帰りたいと思っていたから、周りを見ていなかったせいだろう。


「笠木さんは、どうしてバイトをされていたのですか?」


聞いてすぐ、後悔した。
純粋に疑問に思ったことだったが、よく考えてみればわかることだった。


「母さんは俺の治療費とか入院費のために一生懸命働いてくれてる。その金で自由なことはできないだろ。だから、やりたいことがあったら、自分で稼ぐようにしてた。それだけだよ」


笠木さんの声のトーンが低くなったように感じる。


やはり、聞かなければよかった。


「あ、そろそろ俺の」
「しーちゃん、玲生は!?」


笠木さんが指さした先から、慌てた声が聞こえてきた。
笠木さんの名前が聞こえてきたということは、あそこが笠木さんの病室なのだろう。


笠木さんは小さくため息をつく。


「一人で歩き回るの、控えないとだな……」


顔は見えていない。
だが、笠木さんが落ち込んでいることは手に取るようにわかった。


「お嬢様、早く病室に連れてって」


私は言われるがまま、笠木さんを押して病室に入る。


「落ち着いて、希実さん。玲生くんはもうすぐ帰ってくるから」
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