君への愛は嘘で紡ぐ
Eighth Lie
行く宛てもなく、夜道を歩く。


「円香お嬢様?」


近くのコンビニの前を通ると、名前を呼ばれた。
振り向くと、奈子さんがビニル袋を持って立っている。


「お久しぶりですね、お嬢様」


奈子さんは私に駆け寄った。


奈子さんは一年前に結婚し、退職した。
会うのは、一年ぶりだ。


「お元気で……お嬢様?なにかありましたか?」


奈子さんは鋭かった。


私の両腕に触れる。


「私でよければ、お話聞きますよ?」


久々の奈子さんの笑顔に、安心した。


よくよく考えてみれば、奈子さんは一度も笠木さんのことを否定しなかった。
私の話を、聞いてくれるかもしれない。


「ねえ、奈子さん……好きな人に会いたいと思うのは……おかしいこと、なのかな……」


言葉にした途端、涙が零れた。


初めて、自分の気持ちを正直に言えた。
そのせいか、感情が溢れ出した。


「笠木さんは……彼は、私に世界の広さを教えてくれたの……でも、彼は……もうすぐ、死んじゃう……のに……お父様が、部屋から出るなって……」


すると、奈子さんはそっと私を抱きしめた。
何度も優しく頭を撫でてくれる。


「それで、お嬢様は家出を?」


急に自分のしたことが恥ずかしくなり、小さく頷く。
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