君への愛は嘘で紡ぐ
「そんな身構えなくて大丈夫だって。笑顔でいれば、ちょっとの失敗は許してもらえるから」


それでも不安は消えなかった。


そのちょっとの失敗で怒られるのではないか。


「あのね、小野寺さん。たしかにお金のやり取りはしてるけど、ここは完璧なお店じゃないの。ミスしてもいいんだよ」


先生は私の両頬を挟んだ。
そして親指で無理矢理口角を上げられた。


「ここではコミュニケーションが大事だからね。笑顔、笑顔」


コミュニケーション。
人との会話。
笑顔。


その全てが、私をさらに緊張の沼に陥れた。


「汐里さん、ここ頼む」


すると、笠木さんが私の腕を掴んで立ち上がった。
靴を履くと、笠木さんに手を引かれて人混みの中を歩く。


歩いている間、笠木さんは何も言ってこなかった。


公園の端にあるベンチに座らされ、笠木さんは後ろに回り、背もたれに腰をかけた。


「お嬢様、コミュニケーション苦手だろ」


あまりにも単刀直入すぎて、勢いよく振り向いてしまった。
笠木さんは流し目で私を見下ろしている。


その目が嫌で、逃げるように足先を見つめる。


「……苦手とは、違うと思います。私は……人と話すのが……怖い」
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