揺れる被写体〜もっと強く愛して〜



その時、珍しくドアがノックされた。
てか、ノックせずに入る私の方がおかしいだけなんだけど。
出るとアシスタントの子で
レイさんにお客様だとのこと。
チラッと見えた男性は全く見覚えがない人。
ここまで来れたってことはそれなりに顔が効く人だと思うけど。




「通していいよー」と奥からレイさんが言う。
どうぞ、と中へ入れた途端。
私は見てしまった。
こんな分かりやすいレイさんは初めてで……




彼を見たレイさんは思わず立ち上がり瞳を潤わせている。
見る見るうちに大きく揺れて頬を伝ってく。
号泣………してる。




「久しぶり……だな」




彼がそう言っただけで堪らず抱きついてしまうような関係性……なの?
誰………なの?




揺れる心を抱えたまま、気付かれないようそっと出て行く。
レイさんの嗚咽を聞きながら静かにドアを閉めた。





どす黒い何かが心を支配していく。
あんなレイさん見たことない。
あんな………まるで心も体もまるごと奪われてるかのような表情。
離れてた月日がどれほどなのかは分からないけど……
そんなの関係ないみたいだった。




一瞬で泣いてしまう相手なんだ。
きっと、レイさんが本気で愛した人……?
結婚を意識した人なのかな……?
でも玉砕したって……
「その人……結婚してたから」って。
今更何しに来たの……?





静かに泣いてる声が遠くで聞こえる。
ダメだと分かっていながらこの場を離れられない自分。
聞こえてくる会話に耳を澄ましてしまった……






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