揺れる被写体〜もっと強く愛して〜



長い長い沈黙のあと。




「これで、あの日の私はもう居なくなりました」




「え…?」




「今、目の前に居るのは現在の私です。間違えないでくださいね?」




「う、うん……」




「ほんの一瞬だけ……私もあの日に戻ってしまったけど、置き忘れた荷物なんてないんですよ?全部引き払って今ここに居るんです。上川さんへの想いはまだ綺麗な憧れのままで居ちゃダメですか…?」




「南城……」




「歩き出してください……じゃないとあの日に流した涙が意味のないものになってしまうじゃないですか…キスしといて言えることじゃないけど…ハハハ」




「ごめん……」




「謝らないで……会いに来てくれてありがとうございます。また頑張れそうです」




「歩き……出すよ。南城に負けないように俺も撮り続ける」




「いつかコラボとかしてみたいですね?」




「その時は声かけてよ」




「はい…!」




ちょうどいいタイミングで他のアシスタントの子が通ったから一緒に立ち去る。
話題を振ってバレないように振る舞う。




少しだけホッとしながら……
すぐにキスしちゃうレイさんにイラッときてた。
そんなんだから男は諦めきれないんですよ。
すぐその気にさせちゃうんだから。




撮影が再開しても、私の頭の中はさっきの件でいっぱいになってた。
しばらく楽屋から出て来なかったから。
2人で何やってたんだろうって。
レイさんのことだから……
キスだけで終わったんだろうか。




ちゃんと断ってたから大丈夫だよね?
憧れと好きは全然違う。
離婚したからってそんなのむしが良すぎる。
私、あの人だけは嫌かも。







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