揺れる被写体〜もっと強く愛して〜
「あの女はダメだ」
「「「えっ!?」」」
「お前ら手出すなよ」
「まーたいいとこ取りかよ〜」
うるせぇ。
絶対落とすって決めたんだ。
だから俺以外誰も触れんな、マジで。
思いっきり独占してやる…!
そう思って帰り際。
さっきのスタジオ前を通りかかったら。
まだ誰か残っていたのか、クスクス笑う女性の声が聞こえてきた。
「キョウちゃんヤバい……欲しいかも…」
気になってソッと中を覗いてみた。
あ………レイ?
後ろ姿が見えて、俺はそのまま固まった。
え………マジかよ。
ウソ……だろ?
椅子に腰かけたまま誰かと重なり合うレイの後ろ姿。
キス……してるように見える。
さっきの撮影時のように……顎に手を添えて。
しかもその相手の男は………
ボトッとカバンが手からすり落ちて床に落ちた。
その音に2人は反応してこっちを見る。
「あ……優吾さん!?」
俺に驚いて立ち上がったのはレイの方じゃない。
キスしてた相手は……俺たちの専属ヘアメイクの野郎だ。
しかも“キョウちゃん”だぁ?
京一郎の分際でお前何レイと仲良くやってんだよ。
勝手に足が動いて2人を引き離そうとしたのかも知れない。
近付いて京一郎の肩を掴んだ。
「お前今何して…っ!」って
言いながらレイを見たらキョトンとこっちを見てる。
その手には何やら持っていて……
「えっと、新商品の試作品をテストしてました…」
「試作品…!?」
「ええ、ルージュを」
「ルージュ!?」
口紅……だよな?
そういや持ってるな。
それに京一郎の唇に違和感……
細い筆で塗ってたのか…?
「…って、何でお前が塗られる側なんだよ!」