揺れる被写体〜もっと強く愛して〜




「私、イタリアに行きます……出来るところまで挑戦しようと思って」




あれから時間が止まっていたのは自分だけだった。
どんなにもがいてももう戻れないんだ。
同じ空間に居るだけでまだ繋がれてる気がしてた。
そんな都合の良い世界があるはずもなくて。




俺はキミに……何を託せたんだろうか。




「美麗なら必ず上手くいくよ。俺が保証する…」




「ありがとうございます…」




声を震わせながら深く頭を下げて、じきに来るアシスタントたちの為に作業を開始した。
強がってばかりの小さな後ろ姿……
抱きしめたい気持ちに駆られる。
でもそれは叶わぬまま………







数日後。




「本当に行っちゃうんだな」




本格的にカメラを勉強しにイタリアへ行くと決めた彼女。
見送りはいらないと言われたが
空港まで来てしまった。
いや、来なきゃ後悔すると思ったから。





「辛くなくなったら帰って来ます」




やっぱり俺は……キミにそんなことを言わせてしまうんだな。
冗談ですよ〜とおどけてみせるけど上手く笑えなくてごめん。
本当に…悪かった。





「この後一人になったら思いきり後悔してください、私と離れたこと…もっと早く出逢えなかったこと」





グッとこみ上げて泣きそうになる。
拳を握るけど……何も出来ない。
何ひとつ行動に移せないヘタレなんだ。





「だから冗談ですよ!じゃあ行きますね?」





「元気で……美麗ならきっと良いカメラマンになれるよ」




「追い越せますかね?上川さんを」




「追い越せるよ…」




 
明るく笑って「じゃあ」と背を向けた彼女。
去り行く後ろ姿に更なる想いが溢れ出て、体がやっと動き出す。
追いかけてしまった。
腕を掴んでしまった。
振り向いた彼女はやっぱり泣いてて想いの丈をぶつけてしまう。





「もうとっくに後悔してるよ…!もっと早く出逢ってたかった…!もっと違った形で愛したかった…」




初めて泣いてすがったかも知れない。
やりきれなくて……美麗を失うのが怖くて……




そっと手が伸びて正面から抱きしめてくれた美麗。
華奢な体を力強く抱きしめ返す。
大好きな香りに包まれたら……




「大好きだったよ、上川さん。愛してくれてありがとう……バイバイ」




最後は笑ってサヨナラしよう?って。
胸が張り裂けそうだ。
本当にこれでサヨナラなんだと今更身に沁みてる。




涙目で笑顔のサヨナラが
俺の中の最後の南城 美麗の姿だった。




それから3年後には数々のグランプリを獲得し、あっという間にプロの仲間入りを果たした美麗。
そんな簡単に俺を追い越すなよな。
悔しいけど嬉しい。




カメラマン、Reiの初の作品展。
招待状が届いたのは、
あれからもう6年が経っていた。








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