揺れる被写体〜もっと強く愛して〜
「あの、僕、日本語大丈夫です」
「え、あ、そうなの?」
驚いた彼女も何だか可愛くて笑ってしまった。
「あ、今の笑顔いいね」と間近でカメラを構える。
通訳も下がり、セットに2人きり。
周りに人はたくさん居るけど、触れそうな距離に心臓は尋常じゃないくらい踊ってる。
僕にしか聞こえないような声で話しかけてくるんだ。
「壁に手をついてみて……そう、目線はこっち」
「クスッ……緊張してる?」
「いつも通り慣れた感じでいいよ」
そんなこと言われてもカメラ目線にしたら、その先に居るあなたと目が合うから………
「困惑しないで…?」
「えっ…?」
「さっきからアガッてる」
カメラを下ろして細い手が僕の髪に触れる。
前髪を少し直して優しく微笑むんだ。
「少し休憩しようか?」
「いや、やります」
そんなの僕のプライドが許さない。
新人じゃないんだ。
僕にだってプロとして意地はある。
カメラを肩に置いた彼女の顔つきが変わるのを見た。
「だったら、プロ根性見せてみな?他の連中とは違うと思った私の勘が間違ってなかったって証明してみせてよ」
スタッフには見せない僕だけに見せた表情。
挑発的な瞳……艷やかな唇……
鼻筋の通った綺麗な顔。
「は、はい……」
ニッコリ笑って「じゃあ全体撮るね」と真逆の表情。
あ、焦った〜。
完全にヘビに睨まれたカエル状態だった。