彼女になれない彼女
全校生徒が並ぶ体育館。
野球部がみんなの前に立つ。
学年ごとに、三年、二年、一年となっている。
丁度真ん中あたりに平良がいた。
つい目で追ってしまう私。

長い校長先生の話の後、キャプテンの挨拶に変わった。
この日のために毎日毎日頑張ってきました。
三年生は集大成の夏になります。
悔いのないよう、「全員野球」をスローガンに心を一つにして頑張ります。

そういえば次の部長を決めてたなんて話をこの間してたな。

平良はまっすぐと前を見ている。

こんな時の平良はすごく遠く感じて、いつも一緒にいる平良とは別人みたいだ。

壮行会はその後、生徒会長の話、応援団の応援、校歌と進み、無事終わった。

出口に向かおうとした時、弥恵が私の肩を叩く。
「見て」と言うように、後ろを小さく指さした。
振り向くと、平良が女子に囲まれていた。

「すごい人気だね。さすがピッチャー。」

彩乃も来て、その様子を凝視する。

「やっぱりお守り渡してるー。」

え。
たしかに1年と思われる女の子たちが平良に手作りのお守りのようなものを渡している。

「沙和は?」
「なんかあげたの?」

2人が聞いてくる。
あげてるわけがない。
何も準備なんてしていない。
だって県予選のことなんて頭になかった。

「あげてないし、何も言ってない。」

私がそう言うと、2人は驚いた。

「じゃあ何か今言っておいでよ。もう野球部出発しちゃうよ?」

弥恵が私の背中を押す。
どうしよう。
たしかに、この後野球部はバスに乗って出発だ。

平良の周りの女子たちがキャーとはしゃぎながら、平良から離れていった。
今だ。

人が少なくなった体育館。
距離があるのに、平良とばっちりと目があった。

彩乃と弥恵が体育館から出て行くのが分かる。

時間がない。

私は駆け足で平良のところに寄る。

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