卑劣恋愛
四つん這いになった膝からは血がにじみ出ていたし、溶けた皮膚はビリビリと痛む。


でも、それも気にならないくらい緊張状態が続けていた。


「さぁ、小屋に戻ろう」


武がそう言ってあたしに手を伸ばす。


「嫌……!」


体の向きを変えて逃げ出そうとしたとき、近くでチェンソーの音が聞こえて来た。


武は弾かれたように周囲を確認し始める。


その隙をついてあたしは道をそれ、木々が茂る山へと身を隠した。


木の陰に身をひそめながら、どうにか足のロープを外す事に成功した。


硫酸がかかった手を確認してみると、幸いそこまでひどいケガにはなっていないようだ。


「ちょっと、ノドカはどうしたの? まさか取り逃がしたの!?」


千恵美の怒号が聞こえてきたのでそっと確認してみると、千恵美が武の頭を叩くのが見えた。


一瞬、助けに出ようかと体が動きかけた。


しかしそれをグッと我慢し、その場に押し止まる。


「役立たずなんだから」


千恵美はブツブツと文句を言いながらも、小屋の中に戻って行った。


武もその後をついて歩く。


武の後ろ姿は、とても小さく見えたのだった。
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