とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
気づかなかったが、いつの間にか緊張して唇は乾いていた。

少女漫画さえ読まなかった私は、かさかさの唇に彼が何度も角度を変えて重ねてくるのをどうしたらいいのか自分の行動がわからない。

 心臓は自分のものではないほど大きく高鳴って、両手は拳を作っていてあまりにも不格好だった。

 そのうちに、小さく伸びた彼の舌が唇を舐め驚いて薄く開いた唇の中に舌が侵入してきた。

「――んっ」

 これが鼻で息をしなければいけない状況。

 いや、普段から鼻で息をしているのだけど、角度を変えるごとに深くなる口づけに、甘さとか感触とか何も思う間もなく、流されていく。

「ふ、ぁっ」

変な声が漏れた、と内心恥ずかしいのに、ずるずると彼の体重でソファの上、覆いかぶされていく。

慣れてる、なあ。この人、いったい、今まで何人の人とこんなことをしてきたんだろう。

私があなたに髪を切られてから、この人は何人の人をこうやって恋人として喜ばしてきたんだろう。

 彼の手が後ろ頭を撫でて、耳を触りながら頬を撫でた瞬間。

 口づけは熱いのに、動く舌は艶めかしいのに、体温が冷えていった。
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