とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
ソファをずるずる落ちていく手を捕まえられたので、反対の手で彼を押した。

「聞いてない!」

「ん?」

「そんなに慣れてるなんて聞いてない!」

質問もしていなかったし、別に言うわけもないけど。

 パニックになってそう言ってしまった。

 口の中にまだ一矢くんの舌の感触が残っていて、どうしたらいいのかわからない。

 触れた場所からぶわっと熱は生まれるのに、気持ちは冷えていくのはどうして。

「これでも恐る恐る触ったんだけど」

「恐る恐る触る人が舌なんていれないです」

「反応が可愛い」

全く謝るそぶりも見せず、悪びれもせずに言ってのけると、上体を起こしソファの隅に座った。

「でもキスの反応は嫌そうじゃなかったな」

 クールで無口で、優しく笑う彼はどこに行った。

 今、私の横で座っている一矢くんは、悪戯っ子みたい。

「――経験豊富なんですね。こんな反応だけで分かるなんて」
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