とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
 部屋に入るように促すと、美里は私を睨みつけた。

「一矢くんが帰ってきたら、私が言ってやる」

「何を言うの」

「おかしい。愛がないのに結婚を強要するなんて犯罪よって」

 鼻息荒い美里を初めて見た気がする。

ここまで心配してもらえたら嬉しいけど、やはり黙っていて正解だった。

私以上に怒ってくれる美里が優しくて好きだ。

「強要してきたのは一矢君って言うより財政難で困窮していた母だよ」

「華怜はそれでいいの? 絶対に後悔するよ。誰かに言われて決めたら、絶対に後悔するよ」

「確かに、ちょっと前までは美里と全く同じ気持ちだったんだよ。でもなんでだろう」

コトコトと音を立てだしたヤカンを眺めながら、自分でもこんな風に落ち着いている自分がよく分からない。

「一矢くんが隣にいることは別に怖いことじゃないなって最近思うようになってる」
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