とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「……なるほど」

一瞬、歩いていた足を止めたけれど、辻さんは空を見上げて頷く。

「髪を切られたら怖いわあ。そりゃあ、美容師として、華怜ちゃんの気持ちが分かる。髪は女の命でしょ」

「少なくても、当時の私にはそうでした。でも、ショーットカットは楽ですよ、セットしなくていいし、好きな色に染めやすいし手入れも楽だし」

 お洒落をしなくてもいい。自分の目で見える範囲でお洒落は楽しめばいい。

 髪は、自分では見えない。だから手が良かった。一番、自分の視線に入ってくる指先が良かった。

 誰のためじゃない。指先は自分が自分で楽しめるお洒落だ。

「それは今も変わらない考えなの?」

クスクスと笑うのは、私の子どもっぽい考え方かな。

人生経験豊かな辻さんには私の今の考えはきっと子どもっぽかったんだろう。

「今は……どうでしょうか」

「お洒落は相手に見てもらいたい、可愛い自分でいたい、少しでも綺麗になりたい、終わることのない欲望だよね。俺だって、流行ってるカラーにすぐ染めちゃうし」

< 131 / 205 >

この作品をシェア

pagetop