とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「恵まれすぎた一矢には、どう説明したらいいのか悩むなあ。うーん」

靴箱で靴を履き替え、真琴が次に何を言い出すのかずっと待っていた。

 が、何度も首をひねるくせに全く答えが出てこないらしい。

 

 階段を上り、三階のクラスに入っても唸っている。

「宿題にしとくか?」

「そうしようかな。授業に身が入らない。それに合唱コンクールも皆をまとめないといけないし」

「……俺も何か手伝うよ」

「いい。お前は黙って微笑んでいてくれ」

なんだ、それ。

なぜ俺は黙って微笑んでいればいいんだ。

それだったら彼女だって、誰の悪口も言わず微笑んでいる。

俺と彼女では何が違うのか。

 真琴にも他の女子たちの思考回路も理解できないまま、自分の席にカバンを置いて座ろうとした時だった。

俺の席の前の彼女に、ガムがついているのを。

クスクスと笑う声も、すべて不気味で、信じられなかった。

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