とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
 窓から見ると、店の前の信号で立ち止まっているスーツ姿の人がいた。

 店に背を向けているので顔は分からないが、隣に立っているOLより頭二つ高い。

 足の長さも規格外。紺のストライプのスーツはオーダーなのか体のラインを綺麗に浮かばせていて着こなしていた。

「辻さんなんて目じゃないぐらいイケメンだったよ。知り合い?」

「いえ。男性の知り合いは居ません……けど」

『一矢くんがお店に来なかった?』

美里の言葉が脳裏を駆け巡った。

あの人なのだろうか。背中を見ても面影も思い出も何も見つけられなかった。

「あ、帰れって言った時に、レジに名刺置いていったわ。忘れてた」

「……なんとか一矢、だったらゴミ箱に捨ててください」

「そう?」

再び店の方へ戻ると、美香さんはすぐに戻ってきた。

「南城 一矢だった。医療機器メーカーの社長だって。私より年下っぽかったのに」

「捨ててくれましたか?」

 美香さんはため息をついた後、頷いた。

「そうか。あんたは恋愛から逃げてる子だったわね」

 それ以上はその話はせずに、再びサンドイッチに手をつけた。

 私たちが食べ終わるころには、雨が再びアスファルトに叩きつけだしていた。

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