とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「今日はもう終われるの?」

「うん。今日は18時までだから。店長の予約の人が来るけど、店長が戻ったら帰れるよ。美里、こっち色打掛の時の」

 赤の色打掛と聞いて、着物の写メを見て柄を合わせてみた。貝殻と蝶のレトロな模様は可愛い。

「えええ。可愛い。これって両面テープでつけるの?」

「えっとね、外れるのが心配なら――」

 言い終わらないうちに、雨の音が激しくなった。

 ふと顔を上げると、激しくなったのではなく店のドアが開いたからだった。

 激しい雨の日。

 今にも雷が空を割りそうな暗闇が続く土曜。

「――劉宮さん」

肩を雨で濡らし、差しても意味をなさない傘は水たまりを作って玄関の傘立てに置かれた。

「一矢くん」

 最初に立ち上がったのは美里だった。

 美里が立ちあがってくれたので、直視せずに済んだ。

 静かで淡々とした声で、――声変わりもしている彼の声に面影が感じられなかった。

 そもそも声を忘れてしまっていたのかもしれない。

「一矢くん、お願い、帰って。真琴くんに聞いたんでしょ。お願い」

「美里、大丈夫。こう何日も来られてたら迷惑だったし、ちゃんと私が話すよ」

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