とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「なに?」

「いや、その……野菜は俺の祖母が送ってくれるから買わなくていいよって伝えたかっただけで。――俺の分まで買ってくれてるなんて思ってもなかったから」

「だから赤くなってるの?」

「ちょっと待って。すげえ熱い」

ネクタイを緩めた彼は、自分の顔を両手でパタパタ仰ぎ、目を閉じて落ち着かせようとしている。

「……私の料理、食べてみたい?」

 落ち着かせようとしていたくせに、口を歪ませ観念したように頷く。

「二人分の食材見て、期待しちゃった」

「……」

この人、まるで少年みたい。大人っぽい雰囲気とは裏腹に年相応か、または少し考え方は幼いのか。

 無垢なのか馬鹿なのか。

「あのね、私、夜が遅い分朝は出勤が遅いんだよね」

「ああ、それなのに朝ご飯付き合わせて悪いなって」

「だから、朝ご飯も私が作るよ。夜はほぼいないみたいだけど」

朝は比較的ゆっくりだから、疲れて帰ってきた彼よりは私の方が作りやすいんじゃないかな。

単純明快。ただそう思っただけのこと。

「いいの? 好きでもない俺に時間使うのいやじゃない?」

「強引に結婚まで持ち込んだ人が、なんで逆にご飯だけは遠慮するの。私は別にいいよ。料理が好きなら、やりたいときに作ればいいけど」

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