とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
「ありがとうございました」
「おつかれ、また明日もよろしくね」
白鳥さんの車が遠ざかるのを待って帰ろうとしたが、雨の音に負けてマンション内に逃げ込んだ。
私の収入では払うのが少しキツかったが、中学から女子校だった私にはここが一番安心する。
女性専用マンションで、一階に管理人在中のオートロック。マンションのどこにも女性専用とか書いていないから、外見もどこにでもありそうな10階建てマンション。
だけど実際は、親戚の男性以外は入室禁止という安全地帯。
オートロックを解除して、ポストの鍵を回していたら着信が鳴った。
『武井 美里』
久し振りの名前に驚きつつも、ポストの中に入っていた結婚式の招待状も同じ名前だったので、電話の理由が少しわかった。
以前、式に来てほしいと言われ『いけるかわからない』と濁して、連絡が途絶えていた。
「もしもし、おひさしぶり」
下がってくるエレベーターの階数を眺めながら、電話をとった。
『華怜、ごめんね。本当にごめんね』
「……なに? どうしたの?」
不穏な空気が携帯の向こうから聞こえてきた。
丁度エレベーターが到着したので、乗り込んで美里の言葉を待った。
『……仕事場に、一矢くんが来なかった?』
「かずや……」