極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
伊藤が言った彼氏像は、龍司にピタリと当てはまり、実乃里の胸に虚しい風が吹く。

「そんな素敵な人は、私なんか相手にしないよ」と力なく笑えば、長身の伊藤に見下ろされ、肩を叩かれて励まされた。


「店長は自信を持っていいと思います。恋愛に興味なげなそのガードを解けば、絶対にいい男が寄ってきます。小柄で童顔で可愛らしい見た目が羨ましいです」

「ありがとう。私からすれば、長身で大人っぽい顔の伊藤さんが羨ましいんだけどね」


無い物ねだりのふたりの会話は、そこで終了となる。


「いらっしゃいませ。ご注文はこちらでお願いします」


伊藤は空いたテーブル席を片付けに行き、実乃里は新たに来店した客の注文を聞く。

その忙しさが、今日はいつもにも増してありがたく感じる。

なぜかといえば、今日は十二月十七日で、潜入捜査を終えた龍司が実乃里の前から消えてしまった、忘れられない“あの日”であるからだ。

龍司のことは吹っ切れたつもりでいても、今日ばかりはどうしても三年前の悲しみと切なさを思い出してしまう。

それを無理やり押し込めて、もっと忙しくなれと、実乃里は願っていた。


時刻は二十時四十分。

クローズは二十時半で、店内にいるのは実乃里ひとりだけである。

アルバイトのふたりは、閉店と同時に上がってもらい、掃除や翌日の仕込みはいつも実乃里がひとりで行っている。

帰りは終電になることもあるが、モーニングはやっておらず、開店は十一時からなので、休息は取れているつもりだ。


(明日は定休日だから、レジを閉めて掃除をしたら帰れる。あ、在庫チェックは今日中にやってしまおうかな。明日は春の新メニューの試作に時間を割きたいし……)


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