極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
口の端をニヤリとつり上げている龍司は、「出直す」と言って背を向け、ドアノブに手をかけた。

ハッと我に返った実乃里は、焦って彼の背中に飛びつき、両腕を胴に回して叫ぶように引き止める。


「まだやってます。営業時間内です。今から開店なんです。龍司さん、帰らないで!」

「わかった、わかった」


龍司は笑いを含んだ声でそう言ってから、強く抱きつく実乃里の腕を解こうとする。


「肋骨二本、折れているんだ。そこは痛いから離してくれ」

「ご、ごめんなさい!」


慌てて龍司から離れた実乃里は、またなにか危険な仕事をやらされているのかと心配になる。


(今度は別の極道一家に潜入捜査? うーん、それはないか。龍司さんは私を巻き込まないようにと、考えてくれる人だもの。もしそういう任務中であるなら、こうして会いにきてはくれなかったはず)


振り向いた彼と、半歩の距離で視線を合わせる。

前髪が目にかかりそうな黒髪も、美麗で涼やかな瞳も、三年前となにも変わらない。

けれども時が戻ったように感じられないのは、会えなかった期間に、実乃里が随分と苦しんだせいなのか。


恋を捨て仕事に生きると自分に言い聞かせ、夢の実現に必死になった日々。

カフェの開店と維持に全力を注いだことで、今では龍司への未練を断ち切ったつもりでいたが、こうして顔を合わせると切ないほどに胸が揺さぶられてしまう。

平気ではなく、ただの強がりであったのだと痛感し、実乃里の目に涙が滲んだ。

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