極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
コートを脱いで、ネクタイなしのスーツ姿になっている龍司は、テーブルに置かれた卵サンドに目を細め、口元を綻ばせた。


「どうぞ、召し上がってください」

「ありがとう。うまそうだ」


実乃里はテーブルの横に立ち、胸を高鳴らせて龍司を見つめている。

自分が作った卵サンドを、もう一度、彼に食べてもらえる日が来るとは思わなかったので、嬉しくてたまらない。

ひと切れを手にして、口に運んだ龍司は、味わって飲み込んでから、感嘆の息をついた。


「ああ……懐かしな。これを求めていた。どの店より、実乃里の卵サンドが一番うまい」


溢れそうなほどの喜びで、実乃里の涙腺がまた緩みそうになる。

それをぐっと堪えて笑顔をキープする実乃里に、龍司が「座れ」と隣を指し示した。

実乃里がベンチシートに腰を下ろすと、彼はふた切れめの卵サンドとコーヒーをゆっくり楽しみながら、優しい目を向ける。


「夢を叶えたんだな。実乃里らしい、いい店だ。開店までは大変だったろう」

「そうなんです。控えめに言って、かなり大変でした」


実乃里は開店までの苦労を、笑い話として明るく龍司に聞かせる。

昨年、融資を受けたいと銀行に相談に行っても、軽くあしらわれて断られた。

それで開店に必要な諸々の経費や、その後の経営プランを詳細まで記入した計画書を作成し、再度銀行に足を運んだのだが、それでもお金を貸してくれなかった。

もしや童顔が災いしているのではと思い、母親の服を借りて老け顔メイクを施し、リトライすれば……なんと、快く応じてもらえたのだ。

やはり見た目での信用性というのも、大切なのだと学んだ。


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