極艶恋~若頭は一途な愛を貫く~
龍司を想う実乃里のまっすぐな気持ちは、卵サンドを通してしっかり伝わっていた。

それは再会に驚いた直後よりも実乃里の胸を揺さぶって、今度は堪えきれずに涙を流してしまった。

彼のために出したおしぼりで目を押さえ、涙を止めようとする。

「なぜ泣く?」と困ったように問われ、実乃里は震える声で答えた。


「想いが伝わっていたことが嬉しいんです。私の卵サンドを忘れずにいてくれたことも。会いにきてくれて、ありがとうございます……」

「ああ、忘れられない味だ。おそらく今後もな」


「もう泣くな」と実乃里の頭を撫でてから、龍司は全てを食べ終えた。

「うまかった。ご馳走さん」

満足げにそう言った後に彼は、「ところでお前はーー」と話題を変えようとする。

けれども、おしぼりで涙を拭う実乃里の左手に視線を止めると、言葉を切った。

「ああ、そうか」と低く呟いてなにかに納得し、視線を逸らす。

カップに半分残っているコーヒーを飲み干した龍司は、ジャケットの内ポケットから革財布を取り出して「いくらだ?」と淡白な声で聞く。


「お代はいりません」

「それは駄目だ。お前に奢られたくはない」

「その卵サンド、メニューにないので値段もありません。それより、なにを聞こうとしてたんですか? 途中でやめられると気になるので言ってください」


涙の止まった目で龍司の横顔を見つめれば、小さく息をついた彼の視線が実乃里に戻された。


「結婚したんだな。お前が幸せならなにも言うことはない。これからも店を頑張れよ」


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