一生に一度の「好き」を、全部きみに。
手術当日、朝からお父さんが病室にやってきた。珍しく平木も一緒だ。
「お嬢様、おはようございます」
「おはよう」
スーツをピシッと着こなす平木の顔は、どことなく沈んでいる。いつもは冷静なのに、こんな顔は初めてだ。
「葵、体調はどうだ?」
「大丈夫だよ」
「お嬢様、無理なさってますね」
「そんなことないってば。平木は本当に心配性だね」
あははと苦笑い。できるだけ今は、暗い気持ちでいたくなかった。
「わざわざアメリカまできてくれてありがとう」
「なにをおっしゃいますか。お嬢様のためなら、たとえ火の中水の中、どこにだって駆けつけます」
「あはは。ありがとう」
「ひとつ、謝らなければいけないことがあります」
「え?」
なに?
そんなに改まって。
「手術が終わったらお伝えしますね」
「なにそれ、気になるんだけど。今教えてよ」
「それはできません。なので、必ず戻ってきてください」
「平木……」
どうしてそんな顔するのよ。
やめてよ。
泣きそうになるでしょ。
「お嬢様のご無事を、心からお祈りしています」
「平木の、バカ……っ」
「葵、お父さんも待ってるからな」
「うん……がんばるね。ありがとう」
そう言ってふたりの手を握り、私は本当に覚悟を決めた。