冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
恋愛未経験のハンディがこんなところで顔を出し、彩実は慣れない感情をおしやるように、目の前のグラスを手に取った。

とりあえずバーボンを飲んで帰ろうと、グラスを傾けたとき。

「振袖を着ている子どもにバーボンはもったいない」

諒太の手が伸び、彩実からグラスを取り上げたかと思うと。

「あ……それは私の」

彩実のことは無視してバーボンをひと息に飲み干した。

「バーボンが似合う女になってから出直せ」

空になったグラスをバーテンダーに返し、諒太は喉の奥でくっと笑った。

彩実は突然のことに呆然としたまま動きを止めた。

振袖でバーボンはだめなのか? そしてバーボンが似合う女ってどんな女なのだろうかと、

次第にむかついてくる。

「あ、あの、お言葉ですが」

彩実は諒太に食い下がるが、相変わらず目を合わせようともしない。

諒太はグラスを磨いていたバーテンダーに「今日はいつもより早く来てもらって悪かったな」と声をかけ、スツールを降りた。

スツールに腰かけたままの彩実は、隣に立った諒太を見上げた。

ここに来るときにも感じたが、やはり背が高い。

ひとめで上質だとわかるスーツに身を包み、これぞ御曹司というオーラが彼を包んでいる。

しばらくの間無言のまま見つめ合った後、諒太が彩実の目の前にすっと手を差し出した。

「え?」

彩実は意味が分からず、諒太と目の前の手を交互に見る。

「帰るぞ。ほら、手を貸すからさっさと降りろ」

「え……手?」

戸惑う彩実に、諒太は焦れたようにため息を吐くと、そのまま両手を彩実の脇に差し入れ、抱き上げた。

「きゃあ」

一瞬でスツールから体が浮いた彩実は、思わず諒太の肩にしがみついた。

「うるさい。これくらいで騒ぐうちは、バーボンなんて飲むな」

舌打ちしながらも、諒太は気遣うようにゆっくりと彩実をスツールからおろした。

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