冷徹御曹司のお気に召すまま~旦那様は本当はいつだって若奥様を甘やかしたい~
見た目は細身だがしっかりと鍛えているのか、諒太はぐらつくことなく彩実を丁寧におろした。

そのおかげで、草履が脱げることもなかった。

彩実は諒太の肩に置いていた手を慌てて離すと、熱くなった顔を隠すようにうつむき、そっと後ずさった。

男性と触れ合う機会などない彩実にとって、この一瞬の出来事はかなりの衝撃で、今も脇に差し入れられた諒太の手の強さを思い出すことができる。

「この縁談だけど」

トクトク跳ねる心臓の音にどぎまぎしている彩実に、どこかおざなりな諒太の声が届く。

その声音に、諒太は今夜を待たずこの場で見合いを断るのだと、彩実は察した。

彩実は気を引き締め、姿勢を正した。

予想通りだと思う反面、思っていた以上にショックを受けている自分に気づき、胸も痛む。

「この縁談だけど」

「はい」

諒太が淡々とした口調で話し始めた。

彩実は緊張しながら断りの言葉を待った。

「気乗りしない君には申し訳ないが、俺はこの縁談を——」

再び諒太が口を開いたと同時に店のドアが勢いよく開いた。

そして、両親たちのにぎやかな声が聞こえ、ふたりは顔を見合わせた。

「十二月の大安の日に、お式と披露宴の予約をしておいたわよ」

バーの静かな雰囲気にそぐわない諒太の母、順子の声が響き渡った。

見れば大きな笑みを浮かべた順子と伸之が近づいてくる。

その後ろには、憮然とした表情の直也と、そんな直也を気にしながら苦笑している麻実子の姿があった。

「え……式って、それに披露宴ってどういうこと?」

彩実は訳が分からず諒太を見上げた。

諒太は首を何度か横に振りながら「なんで勝手に決めるんだよ」と吐き捨てる。

「それって、もしかして」

勝手に自分たちの結婚が決められたのだろうかと、血の気が引いた。

はっきりとは聞き取れなかったが、今まさに諒太にこの縁談を断られようとしていたところだというのに。

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