Before dawn〜夜明け前〜
7.日本〜ニューヨーク

Giselle

全ての寿司は時価。メニューのない高級寿司店利久は、桜木のお気に入りの店だった。
矢野といぶきと黒川はカウンターで店の大将とともに桜木の思い出話に花を咲かせた。


そして、Giselle。ルリママの店でいぶきと桜木を引き合わせた思い出の場所。


「矢野センセ、お久しぶりですね」

「よぉ、ルリママ。このところ、忙しくてなぁ。
それより、今日は珍しいゲストだぜ」

矢野の後ろをルリママがのぞきこむ。

「あら、桜木さんのところの…黒川クンじゃない?久しぶりね〜矢野センセと一緒なんて珍しい」

黒川のかげになっていたいぶきがひょっこりと顔を出すと、ルリママは、はっと息を飲む。

「いぶきちゃん?」

「はい、ご無沙汰しています、ルリママ」

「まぁ、まぁ、キレイになって!ますますアキナに似てきたわ。よく、顔を見せて」

ルリママは、いぶきをぎゅっと抱きしめた。フワリと香水が香る。十年前と変わらぬその香りに、いぶきはホッとした。

「元気そうでよかった。桜木さんはどう?」

席に着くと、ルリママが水割りをつくりながらいぶきに尋ねた。

「…良くはなりませんが、今の治療法が合っているみたいで、体は小康状態のままです。
でも、頭はしっかりしてますよ。よく私の仕事を手伝ってくれます」

「そう。
いぶきちゃんの顔を見れば分かるよ。
幸せなんだね。よかった」

それからいぶきは、ルリママに問われるままに父の話をした。
酒も入って、饒舌になる。



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