Before dawn〜夜明け前〜
「すごいじゃない。いぶきちゃん。

なるほど、ただの女の子じゃないわ。
その目、それは上に立つ者の強い目ね。惚れ惚れするわ〜。
その目をする女の子は、初めてよ。
拓人、あなたよく見つけたわね。

アタシの最愛の男の目を思い出すわ。
ウフフ、最高の男なのよぉ」

鏡越しに、ジュンといぶきの目が合う。
ジュンは満面の笑み。

「大丈夫よ。見た目なんてアタシがいくらでも綺麗に出来る。あなたは元がいいから、どこまでも綺麗にしてあげられる。

だけど。
いくらアタシが綺麗にしてあげたところで、それは、ただのメッキ。
あなたの内面までは磨けない。

だから、そうやって、拓人を信じていて。
あなたになら、わかるわね?
拓人がどれだけ孤独な戦いを強いられているか。
寄り添うだけじゃ、ダメなのよ。
あなたみたいに強い心で一緒に戦える子を待ってたわ。

あなたは一条拓人に選ばれた女の子。まさにシンデレラ。

自信を持って、胸を張って、拓人の手を離さないで」


ジュンの言葉がいぶきの胸を打つ。


「自信持って胸を張って…?
この姿なら、私も風祭の娘に見えるかしら」

「風祭どころか、もっといいところのお嬢に見えるさ」

拓人に褒められて、嬉しくなる。
いぶきは、スカートの裾を持って、鏡の前で横を向いた。

背中も広く開いたドレスだった。
背中の引き攣れた傷跡が鏡に映って、いぶきのほころびかけた表情が凍りつく。

それを素早く察し、ジュンはフワリといぶきの肩にショールをかけた。

「背中は首までレースをつけるわ。大丈夫、見えなくする。視線がなるべく背中にいかないように、シンプルにして、その分、胸とウエストを強調しよう。

ウフフ〜どんどんイメージが膨らむわ。

心配しないで。アタシに任せて」

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