Before dawn〜夜明け前〜
甘い生活
いぶきの生活は激変した。
朝、まだ暗いうちに目が覚めるのは、昔からの習慣だ。
ゆっくりベッドから起き上がる。
「…まだ、早い」
だが、ベッドの中から伸びてきた手に、引き戻される。
拓人は朝が弱い。
無敵に見えた拓人の数少ない弱点。
毎日、夜遅くまで勉強に仕事にと追われているのだ。仕方ないと思う。
「ごめん、起こしちゃったわね。
ゆっくり寝てて。学校行くまでまだ2時間あるから。
私は朝ごはん作る」
だが、拓人はいぶきの体を抱き寄せて離してくれない。
「拓人?」
「目が覚めたから」
拓人の手がいぶきの体を撫で始める。
「するの?」
「あぁ」
いぶきは、体を反転させた。顔にかかった髪を拓人が優しく払ってくれる。
体を繋ぐことも、拓人が求めればいつでも受け入れる。
拓人に救いを求め、彼は闇からいぶきを救ってくれた。
その対価にいぶきは自分の全てを一条に捧げると決めたのだから。
それに、抱かれている時間は好きだ。
そのひとときだけ、拓人はいぶき1人だけのもの。重なる体の熱さも、吐息の切なさも、全て、いぶきだけのもの。
それが、たまらなく嬉しい。
「シャワー浴びたら、少し仕事するから。
朝ごはん出来たら呼んで」
「わかった」
拓人は天才肌なのだとずっと思っていた。
だが違った。寝る間も惜しんで人知れずとんでもない努力をしている。
ただ、その努力を隠すのが、天才的に上手い。
家ではいつも机に向かい、勉強に仕事にと、時間をうまく使って両立させていた。
ーー少しでも息抜きになればいい。
いぶきは自分の体に残る拓人のつけた痕を見ながら思う。
今のいぶきに出来ることは、まだそんなに多くないから。