Before dawn〜夜明け前〜

学校に通う時は拓人と共に一条家の車で登校。
校内では黒川が常に護衛し、他の生徒はいぶきに近づくこともできない。

また、放課後にはいぶきの為に教員が特別カリキュラムを組み、最高の教育が受けられた。
先日の全国模試では一番上に『光英学院高校 青山いぶき』の記載があった。




「はい、黒川くん、これ、今日のお弁当」

お昼休み。
いぶきは黒川と丹下と三人でお弁当を食べる。ただ、丹下は一週間に一、二日しか学校に来ないので、黒川と2人のことが多い。

最近、黒川が忙しいことを聞いて、いぶきがお弁当を作ってあげるようになった。

「ありがとう、青山さん！
マジで助かるよ」

「オヤジさん、大丈夫なの？」

「うん。朝は本当に調子悪いみたいで。
日に日に弱っていくのを見てるのは辛いよ。

あ、でも、時々馴染みの店に行けるくらい元気な時もあるんだ」

黒川も色々大変そうだ。

「私に出来るのはお弁当くらいしか思いつかないけど…
黒川くんは、大恩人だから、私に出来ることあれば何でも言ってね」


「青山、お前、変わったな。
前のお前は、そんなこと言うヤツじゃなかった。
全ての事に関心が無いっていうか…
でも、今はなんか、余裕じゃん？
先輩がよっぽど可愛がってるんだなぁ」

この日は、丹下も学校に来ていて、賑やかなランチタイムだった。

「可愛がってるって…そんなんじゃないよ。

ただ、毎日ご飯が食べられて、ちゃんと寝るところがあって、理不尽に怒られない。

多分、丹下君からすればごく普通の事だろうけど、それが本当に有り難くて」

ほんの少し微笑みを浮かべるいぶき。

拓人と暮らし始めてから、いぶきの表情が少しずつ変化してきていた。喜怒哀楽を表現するようになってきている。

「青山…お前、今の顔いいじゃん。
なぁ、クロ」

「あぁ、いい。
チクショウ、拓人が羨ましいよ。

あー、弁当うまいっ！」

黒川と丹下が笑って一緒にいてくれる。
たとえ、他の生徒から距離を置かれて孤立していても、この2人がいてくれるから学校も楽しかった。