Before dawn〜夜明け前〜

真実の扉

「ほら、丹下、行くぞ。
逃げるなよ」

立ち上がって、拓人は丹下の腕をがっつり掴んだ。

「バレたか。
ドサクサに紛れて消えようと思ったのに…
ってか、俺、クロに財布取られたんだ。逃げられないようにって」

「あ、じゃ、私、受け取ってくる。拓人、丹下くんの事、見張っててね」


いぶきは部屋を出て、廊下を歩く。

近くのドアをそっと開けると、そこは別世界だった。

豪華なシャンデリア。ビロード張りのソファに、大理石の床。

完全に、未成年のいぶきが居てはいけない場所だ。

いぶきは黒川の姿を探して店内を見渡す。

すると、ルリママが入り口で客を出迎えている姿が見えた。

「今夜は、お早いお着きですね」

「おぅ、若ぇのが待ちきれねぇってほざくからよ。ルリママ、頼むぜ」

ルリママに案内された客に向かって、何人か深々と頭を下げていた。
その客がソファに座ると、頭を上げる。
その中に黒川の姿を発見した。

何となく、話しかけ難い。
どうしたものかと、思案していると、後ろからポンと肩を叩かれた。

拓人だ。

「丹下くんは?」

「黒服の強面お兄さんに見張ってもらってる。
あー、桜木組長がきてるのか。
これじゃいぶきには声かけ難いだろ」

「あの人が組長さん?黒川くんがいつも、『オヤジ』って言ってる人ね?」

「そう。
桜木組組長、桜木一樹(さくらぎ いつき)。
ヤクザだけど、すごく男気のある人で、俺、好きなんだ。
ちょっと、行ってくる」

そう言うと、拓人は、スタスタと黒川のいるテーブルに歩み寄った。

「お?一条のとこのボンじゃないか?

ダメだぞ、学生さんがこんな遅くまでこんなところにいちゃあ。たぁくさん勉強して、この日本を動かすくれぇの力をつけなさいよ」

「ハハ…桜木組長に言われるとズッシリきます。
…お久しぶりです。お元気そうじゃないですか」

「そうでもないさ。体はあちこちガタガタよぉ。

…ん?なんだ、ボン、女連れとは珍しい」

拓人の背後に隠れるように立っていたいぶきは、スッと黒川に歩みよる。

「黒川くん、丹下くんのお財布、預かってる?」
「あっ!そうか、ごめん、ごめん。これ」

黒川がスーツの懐から丹下の財布を取り出した。

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