俺様課長のお気に入り
愛犬の嬉しそうな顔を思い出しながら、再びスマホに目落とすと、

「わあ、ケイ君。だめだよ。待って」

という声が聞こえてきて、顔を上げた。
さっき見ていたゴールデンレトリーバーが、俺のところに駆けてくるところだった。

犬は、俺の目の前目足を止めると、「ワン」と一吠えした。
キラキラした目を向け、尻尾を振っている様子からすると、かまって欲しいのだろうとわかる。

「おっ、なんだお前。賢そうなやつだな」

頭を撫でてやると、気持ちよさそうな顔になる。

「すみません」

一歩遅れて、飼い主の女性が焦った様子でやってきた。
近くで見るとやっぱり小柄で、あどけなく見える。
しかし、その大きな瞳には意志の強そうな光が宿っていた。
まっすぐなその瞳に、無性に惹かれてしまった。

少なからず動揺した俺は、そんな想いを誤魔化すように、彼女をちび扱いしてからかった。
必死になって、口をパクパクさせながら怒る様子は、なんだかすごくかわいくて意地悪が止まらない。

思えば、この時から俺は彼女のことが気になっていたのだろう。
でも、初めて行くカフェで出会っただけで、何か発展するわけでもなく、またここに来れば会えるかもという気持ちで、店を後にした。


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