俺様課長のお気に入り
何度か目は覚めたものの、何も食べたくないし、動くのも億劫で、そのままベッドで過ごしていた。
気休めに飲んだ風邪薬は、あまり効果を発揮していないようだ。



今はいったい何時だろう……
ふと目が覚めて、辺りを見た。
窓の外は薄暗くなっている。

「クゥーン」

「あっ、ケイ君ごめんね。ゴホン。ご飯をあげないとね。ゴホン、ゴホン……」

なんとか体を起こした時、玄関のチャイムがなった。
誰だろう?
ゆっくりモニターに向かうと、再びチャイムがならされる。

えっ……要君?

「はあい。ゴホン……今開けるね」

玄関を開けるや否や、心配そうな顔をした要君が入ってきた。

「陽菜、風邪で休んだって聞いたぞ。大丈夫か?……って、辛そうだな。
何度か電話もしたけど、反応がないから心配したぞ」

「ごめん。ずっと寝てて気づかなかった。わざわざ来てくれてありかとう」

「そうか。いいから、お前は布団に戻って、熱を測ってみろ」

「ワンワン!」

ケイ君が要君に近づいた。

「ケイ、お前も心配だったんだな。陽菜、何か食べたか?」

「何も。お腹がすかなくて。あっ、38.2度だって」

「高いな……何か食べた方がいい。薬を飲まないと」

「食べる気がしないけど……」

「とりあえず、ゼリーを買ってきたから、少しでも食べろ」

そう言うと、要君はベッドまで水とゼリーを運んでくれた。

「他にも買っておいたから、冷蔵庫に入れておくぞ」

「ありがとう」

私がゼリーを食べるのを、要君は心配そうに見守っていた。

「ごちそうさま」

「よし、陽菜。解熱剤を飲んで寝てろ。俺が今からケイの散歩に行っておいてやるから」

「えっ、悪いよ」

「ケイも少しは発散させてやらないと、かわいそうだろ。少しの間、一人にしても大丈夫か?」

「うん」

「鍵どこだ?借りてくぞ」

玄関を指し示すと、要君は鍵を持ってケイ君を連れ出した。


要君は、なんでここまでしてくれるんだろう……


考えようと思ったけど、だるさが邪魔をして何も考えられない。
目を閉じていると、再び眠りについていた。



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