蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 そうしていろんな部門を回り、入社から一年が過ぎた頃、私はかねてから希望していた営業企画部へと異動になった。披露宴やパーティーなどバンケットをプランニングする仕事だ。ようやく花が活躍する現場に関われることになったのだ。

 この昇格には橘部長の口添えがあったと、小舟さんから聞かされた。


「もう一年にもなるのにいつまでも実習でこき使うのは酷だがね? 橘部長が自分のところにくれって人事に口出ししたんだと」

「橘部長、素敵だわぁ」


 うっとりと宙を眺める私の横では、サラリーマンたちがすごい勢いで蕎麦をすすっている。ここは駅なかの立ち食い蕎麦屋で、仕事仲間たちとたまに寄って帰る。娘のこんな姿を母が見たら卒倒するだろう。


「結婚するなら橘部長みたいな人がいいなぁ」


 あんな素敵な人と結婚できるなら、もっと上品なお嬢さまになる。部屋でこっそりカップ酒を飲むのはやめるし、好物のイカゲソも我慢できる。……はずだ。


「甘ったるい男よりクールな男のほうがよぐねが?」

「クールな男って鷹取部長のこと?」

「それ以外に誰がおるんね」


 隣のサラリーマンが私たちを不思議そうにちらちら見ている。親子以上に年齢差のある女ふたりがこんな話で盛り上がっているのは、なかなかシュールだろう。


「人生終わる前に、一度はああいうセクシーな男に抱かれてみてぇもんだな」


 人目をはばからぬ大胆発言が飛び出し、私は盛大に吹いた。


「私は絶対にないわ!」



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