通信制の恋
その影を不審に思い、顔を上げるとそこには少し仏頂面な天野くんが立っていた。


「あ、天野くん…」


「これから用事ある?」


「へ…?な、ないけど…」


「じゃあ、一緒に帰るよ。来て。」


「ま、待って帰る支度を…、あと杏樹ちゃんにも…」


「友達には後で連絡すればいいでしょ。ほら、早く支度して」


目の前に天野くんが現れて狭い机の間を縫って逃げることも考えたが逃げ切れる気もしなくて、私は言われた通りに、教科書や筆記用具をリュックに仕舞い、背負うとそれを見た天野くんは私の手を掴んで歩き始めた。



私の歩調に合わせるかのように、階段を駆け下りていく私たち。



「(せっかく距離をとって、この恋も終わりにしようと思ったのに…)」


下駄箱で自分の靴に履き替えてる間も天野くんは私をじっと見つめて、待っていてくれた。



玄関を出ると再び繋がれた手にドキッとしていると、天野くんの足は学校の最寄駅へと向かっていることに気が付いた。


「あの、天野くん…、白鷺さんはいいの…?」



「は?なんで今あいつなの。」



「だってこの間告白されて付き合ったんじゃ…」



「話に尾びれが付いてるじゃん…。告白はされたけど、断った。」



「こ、断った!?ど、どうして…」


「どうしてって…、そりゃ、好きな人がいるから。」



天野くんが白鷺さんの告白を断ったことよりも私はその後の"天野くんに好きな人がいる"という事実にショックを受けた。


「(天野くん…好きな人いるんだ…)」



私は天野くんの手を振り払おうかと思ったが、天野くんの手はより一層強く握ってきた。




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