きみのための星になりたい。

今日は数学を中心に授業が展開され、あっという間に時間は過ぎ去っていく。

問題を解いたり解説を聞いたり、百二十分みっちり勉強した後は身体と脳がともに疲弊しているのがよく分かる。

今日はいつも以上に疲れた。そう感じるのはきっと、数字ばかりを見て脳を活性化していたことも関係しているのだろう。

授業を終えた後は三人と別れ、私たちはそれぞれの家路を辿った。

私の自宅は住宅街の中にあり、何度か曲がり角を曲がった所の突き当たりに建っている。最後の曲がり角を通り過ぎたところで、ようやく自宅が目視できた。

「ただいま」

挨拶をしながら玄関の扉を開いて中に入り、ローファーを脱いで端っこに並べる。

いくら日が落ちたとはいえ、夏の夜だ。外はじめじめと暑く、吹く風も決して冷たくはない。けれど、それとは反対にリビングは冷房が効いていて、すぐに身体の熱を吹き飛ばし、湧き出ていた汗が徐々に引いていくのが分かる。

「お姉ちゃん、おかえり」
「凪、帰ってきたのね」

笑顔で出迎えてくれたのは、蓮とお母さんだった。

くるりと辺りを見渡すが、お父さんの姿は見当たらない。……そういえば、今日は出張だと言っていたなあと思い出す。

トラックの運転手をしているお父さんは、ひと月のうち何日か、こうして家を開けることがあるのだ。もちろん、当日にきちんと自宅へ帰ってくることの方が多いのだけれど。

「凪お姉ちゃん、会いたかった」

そんな可愛いことを言いながら私の腰にきつく抱きついてくる蓮は、車が描かれた小さなエプロンを着けている。

「蓮、えらいね。お手伝いしてたの?」
「うん! お母さんの真似っこして、混ぜ混ぜしてたよ」
「へぇ、すごいじゃん。蓮が頑張ってお手伝いしてくれたご飯、楽しみだなあ」

得意げに私を見上げる蓮を褒め、頭を優しく撫でてあげれば、蓮は嬉しそうに目を細める。

「ほら、蓮。混ぜ混ぜの続きするわよ。お姉ちゃんも完成を楽しみにしてるって。ね?」

お母さんが私と蓮を交互に眺めて笑う。だから私もとびきりの笑顔で頷き、蓮の背中をポンと叩いた。

「蓮、もう少しお手伝い頑張って。お姉ちゃん、うきうきしながら待ってるからね」
「分かった、僕、いっぱい頑張るね」

そう言って、小さな拳を握りしめ、かっこよくガッツポーズを決めた蓮。キッチンへ駆け足で戻って行った蓮は、再びお母さんと楽しそうに料理を始めた。
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