過ぎた時間は違っても
もう少しで死ぬと言われて一人になりたくないのは分かる。不安で怖くてたまらないんだろう。その不安を取り除いてあげられるのならずっと一緒にいたって構わないのに。

「もちろん。おいで」

「ありがとう」

彼女の震える体を抱き締める事しか出来なかった。ぴたっと抱き寄せて震えている小さな体を支える事しか出来なかった。不安を取り除いてあげるなんて出来なかった。
ただ眠るまで待って、抱き締めたまま朝を待った。沈んだ太陽が昇る頃には震えも止まっているだろうと思ったから。そしてまた、頼ってくれる夜が来るだろうと思ったから。
目が覚めると、いつも俺より早く起きる唯織がまだ起きていなかった。唯織の寝顔を初めて見たと思いながら明るくなった前髪をそっと撫でた。
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