レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
* * *
僕は、誰にも会いたくなくて部屋へこもった。
それでも翌日には、誰かと何かの話がしたくて部屋を出た。
皆とたわいもない話をするうちに、一週間後には気持ちが大分落ち着いた。だけど、紅説王はそうはいかなかったみたいだ。
王は一週間、あかるの遺体が置かれている部屋にこもった。何とか話をしようとしたけど、警備兵に止められて話すら出来なかった。
それは誰が行っても同じことだった。
それから王はやつれた顔で部屋から出てきて、僕らに宣言した。
「あかるを生き返らせる」
僕は正直、王は正気を失ったと思ったし、その場にいた殆どの者が同じことを思ったという。――マル以外は。マルは不謹慎にもその瞳を輝かせていた。
紅説王はマルと研究室にこもるようになった。いつもなら、禁じられない限り僕はそこに入り浸る。だけど、今回ばかりはそんな気になれなかった。
王に同情心もあったし、正気を失っているにしてもなんにしても、愛する人にもう一度逢いたいという気持ちは、僕には十分に理解できたからだ。
だけど、研究室に行かない理由は他にあった。
彼の気迫が、あまりにも恐ろしかったからだ。
マルはいつも研究に没頭しているけれど、紅説王は没頭しながらもどこか冷静だった。そんな王が、一心不乱に研究に没頭する様は、どこか異常で、鬼気迫るものがあった。
立ち入ってはいけないと、僕の中の何かが警鐘を鳴らしていたのだ。
だから僕は、たまに研究室を覘くに留めた。
全てを記すという贖罪に背くことには抵抗感と罪悪感があったけど、この警鐘を僕は無視することが出来なかった。
葬儀をされないまま、あの部屋に寝かされ続けているあかるの肉体は、何故か腐敗しなかった。