レテラ・ロ・ルシュアールの書簡
マルによれば、魔王の抵抗力によってだろうという話だったけど、いつまでも色づく薄紅の頬や血色の良い唇を見せられ続ければ、愛する人の死を受け入れるのは難しい。僕は王に心底同情する。あれではまるで、今も生きていてただ眠っているだけのように見える。
そして火恋もまた不憫な子だと思う。
火恋は、城に留まっていた。自分があかるを追いつめたせいであかるが死んだのではないかと気に病んで、殆ど食事を口にしなかった。
もちろん、晃を二度喪ったショックもあっただろう。
僕だって同じだ。あの衝撃は今でも胸に深く響く。
紅説王は、あかるが何故死んだのか明かさなかった。
あかるの肉体が腐食しないせいかも知れないし、自分の口からあかるが死んだと確認したくなかったのかも知れない。
その気持ちは、どちらだったにせよ僕には良く理解が出来た。僕だって、気持ちの整理が出来るまでその名を口にしたくなかった。この世にいないのだと認めるようで恐ろしかった。
だけど、僕はそんな王に憤りも感じていた。何故亡くなったのか知らなければ、火恋は自分を責め続けるしかない。
火恋には、自分のせいであかるが死んだと思って欲しくなかった。
そうして、誰もが憂鬱なまま、一ヶ月が経ったある日、事件が起きた。
それは、寝静まった夜更けだった。突然、強風が駆け抜けたような轟音が城中に響き渡った。
「なんだ!?」
僕が飛び起きると、廊下を障子越しに女の影が駆けて行くのが見えた。あれは、おそらく隣室のヒナタ嬢だろうと思って、はたと気がついた。何故夜中に影が見えるんだ? 縁側ならばともかくとして。
そこでふと気がついた。
廊下を白い光が照らしている。僕は何故だか直感した。この光は、魔王だと――。
僕は布団から飛び起きて、障子を思い切り開けた。すると、廊下の先から光が溢れ出している。僕は光源の方へと駆けた。
「眩しい」
光源へと近づくにつれて、眩しくて目を開けていられなくなった。僕はよろめきながら進み、誰かとぶつかって尻餅をついた。
「すいません。大丈夫ですか」
僕は薄目を開けてその人物を見上げた。ぼやっとした視界から見えたのは、ヒナタ嬢の横顔。透き通るようなきれいな肌だった。
「なんだ、ヒナタ嬢か」