レテラ・ロ・ルシュアールの書簡

 僕は呟いて、薄目にしながら立ち上がった。それと同時に、今度は地面が大きく揺れだした。

「うわっ」

 せっかく立ち上がった尻が勢いよく地面へ戻る。

(地震か?)

 切迫した瞬間、光がいっそう強くなり、僕は思わずぎゅっと目を瞑った。強い衝突音がして、光は一気に消え去った。

 いや、あまりにも強い光が遠ざかったために、一瞬、無くなったのだと勘違いしたんだ。だが、目を開けると、光源はきちんと輝いていた。そう、僕らの上空に。

 あるはずの天井は吹き飛び、それは夜空に爛々と輝いていた。
 僕らの白い太陽――魔王だ。

「どうして魔王が。だって、あかるの体の中に残ってるはずだろ?」

 独りごちた僕に、ヒナタ嬢が答えた。

「どうしてだって? そんなの決まってる。あの王が取り出したんだろ。女可愛さにな」
「だからって、何で魔王を取り出す必要があるんだよ」
「そんなの、あたしが知るはずないだろ」

 ヒナタ嬢は一瞬僕を睨んで、天を仰いだ。そして、にやりと酷薄な笑みを浮かべる。

「そんなことより、お出ましだ」
「え?」

 嫌な予感と供に、それはやって来た。
 地に叩きつけるような突風を巻き起こし、暗雲のような巨大な黒い影が、白い太陽を遮って僕らを覆った。
 全身が粟立つ。

(――やつだ!)

 魔竜、アジダハーカ。ただ一匹の生き残り。
 ヒナタ嬢は、ぼくの隣で冷酷な笑みを浮かべたまま、囁いた。

「あたしの左腕の仇、あのトカゲ野郎……」
「ヒナタ待て!」

 駆け出そうとした彼女に、後ろから強い制止がかかり、ヒナタ嬢は振り返って駆け出すのを止めた。廊下の端から燗海さんが一瞬で駆けて来て、僕らに並んだ。

「なんだ、ジイさん」

 ヒナタ嬢は迷惑そうな表情を浮かべて燗海さんを見る。燗海さんはそんなヒナタ嬢を一瞥もせずに、魔竜を見上げた。

「様子がおかしい」
「え?」
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