レテラ・ロ・ルシュアールの書簡

 * * *

 どこに行くのか知らないが、その道すがら僕はミシアン将軍が話し出すのを待った。廊下のいたるところに血が飛び散り、死体が転がっている。

 ここに友人の顔がないことを確認したい気持ちと、目を背けたくなる気持ちが混在していた。その相反する衝動と、話を促したい気持ちから、僕はミシアン将軍の顔ばかり窺っていた。
 すると彼は突然口を開いた。

「どこから話をすればいいのかなぁ」と独りごちて、僕に視線を移す。
「さっきの質問の答えからにしようか。答えは、後者だ」
「条国そのものですか」
「結果的には、そうだね」
「――というと?」

 僕は訝しがって首を傾げる。

「私的には、民間人に手は出したくなかったなってことだよ」
 ぞっとした悪寒が走る。心臓が跳ねた。
(まさか……)

「もう、焼け野原になってるだろうね。だいぶ前に、驟雪の軍とハーティムの軍が町に火を放ってたから」

 僕は絶句して、少しの間言葉を失った。その間にも、将軍は話を続ける。

「我々ルクゥ国の部隊が、城中の者の殲滅と能力者の足止めをし、その間にハーティムと驟雪が城を駆け抜け、城下におりて町の者や条国の兵士を一掃し、最後に水柳の精鋭が君達を探し出し、捕らえるか殺す。そういう作戦だったんだよ」
「……ひどい」

 やっと言葉が出た。ミシアン将軍は苦笑した。

「ひどいか。君はやっぱり文官だね。戦争をいくつか経験していれば、町を焼くこともあるし、敵と手を組むこともあるよ」

 ミシアン将軍は、決して僕を責めている言い方ではなかったけど、言い訳じみている風に感じられて、腹立たしさがふつふつと湧いた。

「何が狙いだ」

 自然と語調がきつくなった。ミシアン将軍は少し困ったような表情を返す。
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